スケジュールを調整しよう

 スケジュールを立てる前にやらねばならないことがありました。キャスティングです。配役を決めなくてはいけません。脚本のイメージというよりもできあがりの映画のイメージに合う配役が必要です。俳優を捜さなくてはいけません。多くはスタッフ兼キャストと言うことで自前でと言うことになるでしょうが、元来映画を製作してみたいなどと思う輩はシャイな人間が多くて「私は裏方で十分です。」なんて言ってたりします。とはいうものの、役者とナントカは三日やったらやめられないと言う言葉通り、なかなかどうして演じることの魔力というものはあがらえないものがあります。しかし、それは演じてみた後の話、決まるものが決まらなければクランクインも出来ません。

 キャスティングは監督が主導するわけですが、要は候補がいなくてはいけません。いなければ捜さねばなりません。ギャラを出せるはずもないのだから、オーディションと言うことも出来ないでしょう。スタッフ全員の人脈を生かして捜すことしかない。そういえば「我が友ハリケーン」のヒロインの方はスタッフがどこかの飲み屋で知り合った女の子をスカウトしたらしいです。私たちはそれを外部タレントということで「外タレ」と呼んでいました。

 さてスケジュールを立てるわけですが、当然これは公開日から逆算して決めなければいけません。締めきり無くして作品は完成しないと思いましょう。いつ完成してもいいなどと言う製作態度では完成なんてしません。演劇の場合も公演日が決まっていて、それに向けて練習するわけです。演劇の公演が一週間あれば、その間に芝居その物が成長すると言うこともあるでしょうが、映画の場合は撮影時に監督がオーケーを出してしまえばそれ以上の芝居は生まれません。最高の演技というものは実はオーケーの後に生まれるかも知れないのですから、この辺りが映画のつらいところです。映画は成長しない芸術です。撮影した後で駄目出しをして撮り直すことも出来なくはないのですが、公演の一回、一回が勝負の演劇と映画の芝居は、根本的に違うもののようです。だからこそ無理のないスケジュールによる撮影が肝心です。

 スタッフ、キャストはそれぞれ自分の仕事を持っていることでしょうから、全員のスケジュールの調整をするのは大変難しいものです。だからこそ、互いに時間を作ってなんとか併せる努力を払わなくてはなりません。自主製作映画の場合は金銭による雇用関係で縛られているわけではなく、心意気の信頼関係で結ばれているわけですから、我が儘なスタッフ、キャストには早めに降板してもらいましょう。人間関係と如何なる場合でも大切です。

 撮影予定を立てる場合には昼間の撮影と室内の撮影では異なります。およそ室内の撮影の場合は天候に左右されませんが、昼間の撮影は天候との戦いだからです。黒澤明じゃあるまいし、空の雲の形が気に入らないからと、何ヶ月も待つ贅沢は出来ません。雨さえ降らなければ、絵が繋がるのならば、とにかく撮影を強行してしまうと思います。とはいえ、さすがに不意の雨は困りものです。その場合を考えて必ず二重にスケジュールを立てておきましょう。雨の場合は室内シーンを撮ると言った具合です。室内シーンや夜間シーンは照明の当て方で昼間を夜に、夜を昼間に替えることは比較的容易ですから。天候の変化同様、スタッフキャストの不意の不参加という事態も起こり得ます。製作と監督はよく打ち合わせておいて、すぐに別のシーンの撮影に入れるように準備をしておくことです。すぐに気持ちを切り替えて、善後策を打っていく、そういう姿勢が無くては全員のやる気が下がってしまいますから。

 私は何か予定したことに躓きがあると、すぐに次の一手を考えてしまいます。最初の予定にはこだわらずに、事態の収拾に最善を尽くそうとする姿勢が私生活でもあるのですが、それはこの頃に培われたのかも知れません。だから、最初のプランにこだわりがなく、すぐにそれを諦めて二の策、三の策を打つことができます。ためらっている時間を惜しいと思ってしまうのです。「雨の日の殺人者」の時は常に雨の場合とそれ以外の場合の二通りのスケジュールが組んであり、雨休みというものがなかったので、スタッフに不満が鬱積したこともありました。

 編集には時間がかかります。フィルムならばシーン毎につないでおけばよいのですが、ビデオではそうも行きません。しかし、ビデオの編集は特に集中して、短期間で行いましょう。かなりの集中力を使いますので、二日間くらいで編集した方がいいと思います。それ以上かかると編集者が体を壊してしまいます。アフレコは一週間くらいのスパンで実働5日くらいが目安だろうと思います。撮影が終了すれば一気に作り上げたいでしょうから、全員の士気が上がった状態でアフレコを乗り越えたいものです。

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