やっと待ちに待ったクランクインです。集合時間には遅れてこないことです。遅刻は罰金ものです。遅刻した人は一人一人全員のスタッフに詫び入れましょう。それが制作だろうと監督だろうと主演俳優だろうと同じ事です。それはスタッフの当然のエチケットと言うべきでしょう。
監督と撮影は事前の打ち合わせが必要です。ロケハンの時とは撮影現場の状況が変わっていたりしますから、スタッフに先駆けて現地入りした方がよいと思います。撮影はすぐに三脚を立てて、水平を会わせましょう。カメラの準備をしているうちにドライリハーサル。照明は撮影と相談して、銀レフをどう当てるかどうか、またライトを使うのか検討しましょう。デイライトは抜群に高熱を発しますので火傷と電気代に注した方がよいでしょう。
撮影のスタンバイが出来れば監督にファインダーを覗いてもらって、了承を得たなら、カメラリハーサルです。今度は照明を当てます。監督は役者の芝居を見てますので、映像はもう撮影カメラマンの責任になります。監督が四の五の言っても所詮映画は撮影カメラマンが絵作りをするのですから、撮影は花形スタッフといえるでしょう。監督のイメージ通りの映像がフレームの中におさまりそうであれば、本番になります。カメラはリモコンやレリーズで操作しないと、よけいな振動がカメラに伝わってしまいます。ビデオの同録の場合、ズームを使うとノイズが入りますので覚悟しましょう。そもそもあまりズームは使わない方がよいでしょう。安っぽい映像になります。
助監督は本番前に撮影の邪魔になりそうなものはすべて排除しましょう。通行人を止めたり、けっこう大変。助監督のチーフはカチンコを打ちます。ちなみにカチンコにはシーンナンバーとカットナンバー、テイク数などを書いて、そのカットの頭に撮影の暇を見て撮ってもらうようにします。そうしておかないと編集の時に絵を探すのが大変ですから。ビデオの場合は撮影が声を出しながら、自分の指でテイク数などを撮影しておけばよいでしょう。
用意が出来たらば、助監督が各スタッフのオッケーをもらって「シーン○○カット1テイク1、本番、よーい、スタート」の声とともにカチンコを打ちます。と言いたいが、カチンコを打つのは別に同録スタッフがいる場合の目印なので、本来必要はありません。でも、気分を出してカチンコを打ちましょう。カメラは本番の声がかかったら回し始めましょう。監督の「カット」がかかったら止める。この本番中に手の空いたスタッフやキャストが私語をしたりするのはもってのほかです。本番中は特に神聖な時間ですので、仕事のない人間はじっと見守ることで参加するべきです。
ビデオで撮影すると困ったことがあります。役者がスタートの合図と同時に演技を開始すると、スタートの音声が画面に残っているうちに、そのカットの演技が始まるので、編集でカットするべき音声が演技にかぶってしまいます。監督のカットの声もそうです。特に同録で編集する場合に編集の頭を悩ます元になりますので、演技の前後の間は注意して長めに撮っておいた方がよいでしょう。ビデオの場合や同録の8ミリフィルムの場合は編集のことを考えて、「よーい、(1,2,3,スタート)」の間合いで、実際には声を出さないで撮入したほうがよいのです。合図は監督が手を振るとか、さらに一呼吸置いてから演技をするとか。ワンカット前の演技から始めるとか工夫が必要です。
撮影(=映画製作)はいつも時間との戦いです。昼の撮影の場合は日没との戦いです。フィルムの場合は人間の目には暗く感じられなくともカメラは正直ですから、早めに諦めましょう。ビデオはかなり粘れますが、カットが繋がらなくなるので無理は禁物です。光量が落ちてくると発色が悪くなります。「夜は全ての猫が灰色に見える」ってやつです。
撮影が終了すれば、後は編集です。
編集の前に映像の確認、ラッシュフィルムのチェック。ビデオならばその場で巻き戻せば確認できますけれども、フィルムではそうはいきません。現像したら映っていなかったという危険はいつでもあります。フィルムが無くなっていたのに気がつかずに撮り続けていたりすることもあります。カメラは機械です。ビデオテープをデッキが噛んでしまうこともあります。そんなときはめげずにリテイクです。「いけない40年ロマンス」では、崖を転がり落ちるアクションシーンをぶっつけ本番で撮ったのですが、途中でフィルムが切れていました。役者に申し訳なかったと思っています。リテイクはあるものだと最初から構えているくらいでないといけません。それを見越したスケジュールを組むことです。しかし、監督のイメージと違ったのでリテイクというのは監督のわがままですので、監督は安易に現場でOKを出してはいけません。スケジュールが押していたので、撮影スタッフをA班とB班にその場で分けて、B班の指揮をプロデューサーに任せて、自分は現場に残り、ワンカットの撮り直しにこだわったことがあります。
撮影のカット割りをする場合に似たようなアングルを連続させることは絶対にやめましょう。編集した時に映像が飛んだような印象を与えます。バストショットからミディアムショットに変えただけなのアングルでは、アングルを変えた意味がありません。カットを帰るにはそこに演出の意図が入っていなければ、無意味なものになってしまいます。これは監督の考えることではありますが、撮影は映像の責任者なのですから、全体のつながりも考えて監督に意見するべきでしょう。また、監督や編集のために、撮影が気を利かせて、捨てカットを撮っておくことも良いでしょう。フレーム内外の小道具や風景を撮っておくと編集で繋がらないカットを強引につなげる時や芝居の間の調整に役立つことがあります。