仲間もそろった。資金も機材もそろった。後はクランクインを待つばかり。この状態まで漕ぎつければ後は順風満帆、いざ船出であります。その前に、役者諸君の練習が必要です。役者が全部そろったら、脚本をそれぞれに渡して、先ずは熟読して、それなりに役を理解してもらいます。監督が全て指示する場合もありますが、まぁ半々と言ったところでしょうか。気むずかしい監督の場合は役の理解を決して役者任せにせず、全て自分で決めていく人もいるでしょうが、まあ仲良くみんなで映画を作っていくという雰囲気は大切にしたいものです。最終的な決定権は当然ながら監督のものですが、いろいろな意見を戦わせて、お互いが納得するように、大いにディスカッションしておきましょう。これを現場で始めると撮影が進みませんので、役作りに関することは事前に打ち合わせておくべきでしょう。
最初に役者が集合して、監督の前で脚本を読み合います。ただの台詞合わせですが、これを「ホンヨミ」と言っていました。演技は二の次で、時間を計って、大体の長さを確かめたり、全体像の確認をしたりする作業です。このホンヨミを行うといよいよこの映画をみんなで作るんだなぁと言う実感が湧いてきます。尤もこの後でかなり脚本の直しが入りますけれども。次には動きを入れたシーン毎の練習。これをリハーサルとかドライリハーサル、または「ドライ」と呼んでいました。芝居で言うところの立ち稽古というやつでしょうか。この時はまだ撮影用の衣装はつけていません。
撮影現場に行ってから、カメラが設営している間に役者だけでするリハーサルのこともドライと呼んでいました。なんでドライと呼んでいたのかは知りません。役者の演技に凝る場合はこのドライに時間をかけることになります。というものの、全くのドライだけでキャストをそろえて練習する時間を取るなんて贅沢なことは、いいかげんな私はしたことがありません。芝居巧者をそろえて演出にこだわった「翔んだ三角」などはまめにドライをしていたという話ですが、実際はどうでしよう。「我が友ハリケーン」には集団の格闘シーンがありましたので、一日ドライだけを行ったことがあるそうです。
撮影当日、カメラをセッティングしてのリハーサル。これは「カメリハ」と呼びました。撮影がカメラをのぞいてアクションにチェックを入れるわけです。フレーム(画面)にアクションがおさまらないので画角を変更しようとか、監督がカメラポジションその物を変更してしまったりとか、演技に関するリハーサルどころか、スタッフ全体があたふたと試行錯誤を繰り返すのが現場というものです。だからこそドライはきちんとやっておくべきだし、素人集団の集まりとはいえ台詞は憶えてきて欲しいものです。まぁ、台詞はその場でどんどん変更されたりしますから、一生懸命憶えても無駄になってしまうこともあるのですが。そこで腐ってはいけません。撮影なんてのはそういうものなのですから。カメリハでオーケーが出れば「本番」です。