気がつくと星空が広がっていた。町の灯りのせいでよくは見えないが、今夜も星が瞬いている。天井がないなんて。いつの間に僕は外で寝ているんだ。夕べは自分の部屋で寝たはずなのに。いや、ここは確かに自分の部屋だ。
熱風と煙が僕を覚醒させる。全身に痛みを感じながらも布団から起きあがり、辺りを見回してやっと状況を理解した。新興住宅地だった町並みが瓦礫と化している。火の手が隣家から上がっている。かなりの大地震が発生したのか。人の叫び声やサイレンが地鳴りのように耳に飛び込んできた。隣の家との境界にある生け垣が火の粉を上げ始めた。
改めて僕の家を見渡すと、それこそゴジラの足にでも踏まれたみたいにぺしゃんこだっだ。僕自身が怪我らしい怪我をしていないのが不思議だった。 一歩を踏み出してみた。大丈夫。歩ける。枕元にぶら下げておいたレアもののナイキに素足を通す。意外に冷静だった。早く逃げないと火災に飲まれてしまう。家族は。そうだ。妹は。父は。
父と妹と三人暮らしの僕たちだ。父と妹の名を呼んで、粉々になった家具を跨いだ。昨日は父の誕生日だったので、妹と小遣いを出しあって、ネクタイをプレゼントした。好きなお酒で顔を真っ赤にした父は、上機嫌でその青いネクタイを締めておどけていた。
父の寝室のあった辺りは天井の太い梁が幾重にも折り重なっている。その柱と柱の間だから、わずかにはみ出している青い布きれ。それを泣きながら必死に引っ張っている妹の姿があった。
「お兄ちゃん。お父さんが、お父さんが……。」
夢中で妹と一緒にネクタイを引っ張ってみたが、反応がない。柱を持ち上げようとしても僕たちの力ではびくともしない。父の名を呼んでも答えがない。火の手がすぐ後ろに迫っていた。火の粉が妹の髪の毛や僕のパジャマを焦がしはじめた。僕は泣く泣く妹をその場から引き剥がした。後は逃げるしかできなかった。
焼け跡から父の遺体が見つかったのは大震災から三日後の午後だった。
翌日、警察から父は誰かに絞殺されたのだと聞かされた。