アフレコをしよう

 8ミリ映画の場合は完全アフレコでしたので、特に現場での録音は必要ありません。アフレコの際に必要な効果音は後で確保すれば十分でしょう。以前はすべて録音スタッフが外に出ていって採ってきました。今は市販の効果音ライブラリがありますので楽です。

 「雨の日の殺人者」のアフレコで録音スタッフがその場で冷蔵庫の音を作ったのには感動しました。座布団とガラスのコップとスプーンで冷蔵庫の開閉の音を見事に作りました(想像してみてください)。基本的なテクニックとしては、足音は革靴とブロック、意外と必要なのは「衣擦れ」の音ですね。これがあるとないとでは臨場感が全く違います。

 「田園調布に銀の銃」という映画では羽田空港のシーンで実際に場内アナウンスをしてもらって、それを録音してしまうという荒技を使っています。雨の音はラジオのノイズ、矢の風を切る音はハンガーをマイクの前で振って音を作りました。また、車のドアの開閉のタイミングなどは、出来上がった映像を見ながら、一度テープに声でタイミングを吹き込みます。「よーい。スタート。ドアが開く。いち、に、さん。ドン。次、ドアが閉まる。いち、に、さん、ドン」 ガレージへ行き、このテープをヘッドフォンで聴きながら、実際に自分で車のドアを操作して、音を採ります。微妙なタイミングのずれはテープレコーダーのピッチコントローラーを使って合わせたこともありました。

 ビデオは同録ですから、どうしてもノイズを拾ったり、声のレベルが低かったりします。シーンによってはアフレコが必要になるでしょう。静かな部屋が必要ですね。学生時代は下宿で夜に行ったものです。深夜は学生街も静かでした。映写機の音が部屋に響くので映写機を押入に隠して、反対側の壁に映写。役者はその下で寝転がって見上げる形でアフレコしたりしていました。ビデオは機材自体がうるさいことはありませんので、静かな部屋さえあれば簡単です。マイクはノイズを拾いやすいのできちんとしたスタンドが必要です。レベルメーターのあるミキサーを使用しましょう。録音レベルが一定でないと仕上がりの悪い作品になります。台詞、効果音、音楽、これらをすべて同時に一発録音する時の心地よい緊張感やうまくいったときの快哉は病み付きになるような充実感があるものです。

 BGMは結局著作権を無視してつけてしまったりするので、かなり豪華なものができます。「威風堂々」は全編影武者のパロディですので、全ての劇伴が「影武者」と同じになっています。「多摩川節考」は最初と最後が既製曲である以外は全編オリジナル曲だけで構成されています。とはいえ、各種コンテストに出品する作品にはオリジナルな曲をつけた方がよいでしょう。素人映画はBGMにあっさりと食われてしまったりするものですので、印象的な既製曲を使うと結局損をしてしまいます。だから、逆に遊びだと割り切って華麗に劇伴を奢ってしまうのも楽しいですけどね。マッチしすぎの劇判は失笑ものではありますが・・・。

 ビデオでは可能な限り同録の音を生かして編集し、足りない台詞や効果音を直接マスターテープにダビングします。最後にもう一度ダビングするときに劇伴をいれました。完成品が撮影テープの孫になってしまうのですが、そうしないと台詞とBGMがうまくはいりませんし、再生するときに両方の音が再生されなくなります。ビデオテープではそんな苦労をしましたが、今の家庭用デジタル編集ではどこまで出来るのでしょうか。アフレコを何回も重ねられるトラックがあるのかもしれませんが、最後は予算かアイディアかの問題でしょう。

 とかく深夜に及ぶ作業でありながら、大勢のスタッフが顔を合わせて作業する最後の仕事になります。自主映画作りでは尤も楽しい一時となるはずです。ただし、ハロゲン球がかなり熱くなるので危険です。1時間ごとに10分の休憩を入れようとしても、どうしても作業事態が長引きがちです。1時間半やったら30分の休憩は必ず入れましょう。

 「いけない40年ロマンス」の最後のアフレコは30時間、貫徹で行いました。明け方に30分休憩をプロデューサーが告げたときにはスタッフ一同、床の上に30分、泥のように眠り込んでしまいました。一晩で体重が2キロ減りました。

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