僕の雪女


 富士雄は隣のクラスの雪子に思いを抱いている、内気な少年である。山男である豪放な父親とは大違いで覇気がない。

 初夏のある晩、自宅の冷凍庫を開けると、光とともに白い煙のようなものが台所にあふれ出してくる。その煙は意志を持っており、富士雄とテレパシーで会話をしてくる。その煙は0度以下でないと存在できない宇宙からきた生命体だという。初が岳の万年雪の中で仮眠していたのを、富士雄の父がクーラーバックに入れて持ち帰ってきてしまったのだ。富士雄が雪女をイメージすると白い着物を着た雪子の姿になって現れて富士雄を驚かす。この日から雪子の顔を姿をした雪女のような生き物は富士雄の家で密かに同居することになる。

 夜、冷凍庫の中の雪女と会話する富士雄。外の世界に興味を持ち行きたがる雪女。富士雄は雪女のために、氷を詰めたステンレスポットの水筒を用意する。街でポットの蓋を緩める富士雄。出現する雪女。珍しそうに辺りを見渡し、喜ぶ。

 町の噴水を凍らしたり、公園の芝生をアイスバーンにしたり、楽しいいたずらを繰り返す二人。

 級友が学校のロッカーの中に置いたポットを見つけて、氷水だと思って口をつける。凍結する級友。あわてた富士雄は級友を担いでプールに走り、投げ込む。気が付いた級友は、夢から覚めたように呆然とする。

 停電の日に冷蔵庫を開けて、雪女にしかられる富士雄。

 梅雨のある日、無理矢理、雪女が学校についてくる。雪女は富士雄と雪子との仲を取り持とうとする。雪女に命令されて、富士雄は雪子のクラスの前で、ポットの蓋を開ける。ガス状になった雪女が一瞬、雪子にとりつき、雪子を放課後近くの橋のたもとに呼びだす。

 雪子が何かにとりつかれたような足取りで,雨傘をさしてそこへやってくる。雪女に励まされて告白する富士雄。雪子は高飛車に自分と富士雄は釣り合わない告げ、富士雄を邪険に突き飛ばしたので、蓋をゆるめたままのポットが川に落ちてしまう。流されるポットを追って川辺りを走る富士雄。川に飛び込んでポットを拾い上げる。雪女は返事をしない。ずぶぬれのまま、酒屋に走り、氷を買って、ポットの中に入れる。ポットに耳を当てて、必死に話しかけている富士雄を奇異な目で見る通行人たち。絶望。しかし、かすかに雪女の息使いが聞こえてくる。安堵した富士雄は倒れて意識を失ってしまう。その夜、富士雄は高熱で苦しむ。雪女は枕元で富士雄を介抱する。立ち上る冷気。熱が下がっていき、やがて意識を取り戻す。

 元気になった富士雄。その晩、富士雄の家に侵入した泥棒を雪女が撃退したことで大騒ぎになる。泥棒は幽霊に襲われたと警察で話すが誰も信用しない。

 夏休み。初が岳を登る富士雄。父親の声が挫折しそうになる富士雄を励ます。万年雪の雪渓にたどりつくと雪女に別れを告げる。雪女は雪渓に帰っていき、冬になったら、富士雄に会いに行くこと約束する。

 半年後。冬の朝。見違えるように逞しくなった富士雄が玄関を出ようとすると、澄んだ青空に白いものが散る。静かに舞い落ちてくる雪だと気づき、空を見上げる富士雄。風花である。

 終わり