特撮をしよう

 今は特撮といえばCG合成ですが、自主映画では荷が重いです。8ミリ特撮で一番使われるテクニックは二重露出です。但し、これはシングル8にしかできない芸当でして、スーパー8ではキャノンの高級機(1014XLS)にかろうじてオーパーラップの機能がついているくらいでした。オーバーラップを同じ場面で仕掛ければものが消えたり、現れたりというよく見かけるシーンが再現できます。8ミリはネガではなくフィルムそのものがポジですから、一発勝負のカメラ内合成をしなくてはいけません。単にフィルムを巻き戻して再び撮影するだけでは倍の露光がされて、単に画像が白く二重写しになるという結果になりますので、マスク(覆い)を仕掛けます。「不思議大好き」のこの映像がマスク合成の一番単純な例です。静止画ではわかりませんが、吊られている円盤と下の町並みは合成です。町並みが横に流れてあたかも、円盤が街の上空を横切っているのをカメラが追うというシーンになっています。もっと綿密なマスクを切って合成したのは「ウルトラセブンJr.」の空飛ぶ円盤新宿襲撃シーンです。理屈の上では「インデペンデンスディ」と同じ構図でした。ビルの谷間から上空を見上げると巨大な円盤が空を覆うようにゆっくりと移動しているというイメージです。これらのカメラ内で行う合成はすべて二重露光の応用です。

 では、カメラの外で行う合成には何があるかというと、鏡を使ったライブアクションであたかも合成のように見せてしまうトリックもありますし、レンズの前に特殊なフィルター(バリミラージュなど)を仕掛けても面白い効果は得られます。が、エリアル合成なんかはいかがでしょうか。「ひと夏のアルバム」では超能力少女が右手から光線を放つというシーンがあるのですが、これをエリアル合成で処理しています。一度撮影した役者の演技のフィルムと絵に描いた光とをハーフミラーを用いて合成するハイテクニックです。これはなかなか難しい技法でして、この映画の中では残念ながら成功していたとは言い難い結果になっています。光の合成ならば8ミリの場合は透過光合成の方が美しい。エリアル合成は基本的に紙の上に描いた光線を合成するのですが、私の言う「透過光合成」とは光線の部分のいわば逆影絵を撮影して合成するローテクニックのことです。私は「リール星人の襲撃」で波動砲の発射シーンをミニチュアで再現しましたが、けっこう美しい光が撮れました。もっともこの映画はそのままおもちゃ箱をひっくり返しただけの映画で、飛行機が飛んだり、レーザーが飛び交ったりしますが、人形劇みたいな実験映画でした。ホリゾントは下宿の壁でしたね。その白い壁をカメラの前に青のセロファンを貼ることで青空に見立てました。それに人間の演技もプラスして新装再撮影したのが「リール星人の逆襲」でして、宇宙戦艦ヤマトのパルスレーザー砲の光跡にも挑戦しました。

      

 駒落としによる変身シーンも8ミリ映画得意の技法です。普段のシーンに取り入れればチャップリン映画風のユーモラスな動きを表現できますが、8ミリ映画的には変身でしょう。ずばり「変身」では顔面がどろどろと溶けていくシーンを恐ろしく、「不思議大好き」では狼女の変身シーンを愉快に描いています。ビデオカメラでもコマドリの機能が付いているものならば、こんなテクニックも使えますが、今はデジタルビデオの時代ですから、上記の全てをパソコンの中で出来るかも知れませんね。多分同一色を透過させてから合成する、昔で言うブルーバックの合成などはお茶の子さいさいでありましょう。

 さて、アクション映画に欠かせない特撮といえばガンエフェクトです。プロの道具をもってすれば簡単なのでしょうが、我々素人にはなかなかどうして、見栄えのするガンアクションを撮影するのは難しい。今はブローバッグタイプのモデルガン(きちんと手入れしないとすぐ壊れます)が排莢までしてくれるかも知れませんが、昔は硝煙と音響だけでほとんど誤魔化していました。日活コルトと呼ばれる銃もきっと排莢はしなかったのではないかと思います。モデルガン規制が厳しくなった後でしたから、鉄製のモデルガンなど手に入りません。はっきり言って当時ですら違法でした。その違法の銃が存分に活躍するのは「田園調布に銀の銃」です。(スナッブノーズのリボルバーが登場します。)モデルガンに火薬を詰めて撃つとフィルムでは結構リアルに写ります。紙火薬(8連発のカネキャップ)を撃つ百円ショップの玩具でも、結構見栄えのする硝煙が撮れます。しかし本体が小さい玩具ですから、大の大人の手には釣り合わないのでつらいですね。1分の1スケールのプラスチック製のモデルガンがあります。これは銃身に金属のおもりが入っているのでそこに爆竹を詰めて火をつけると火花が散ってそれらしいですが、2発も撃つと銃身がバラバラになってしまいます。この方式は一発ずつしか撃てないわけで、連射は出来ません。ともあれ撮影にはリボルバーの方が使い勝手がいいような気がします。

      

 弾着はどうするか。先ずは血糊の用意です。これは絵の具を適当に混ぜて作ればよいのです。専門的には演劇用のものを買ってくればよいのですが、その必要はないです。先ずは血糊の袋を作る。これにはスーパーのレジの後に置いてあるロールタイプの薄いビニール袋で十分です。隅に血糊をためて輪ゴムでしばる。一つの袋で2個の血糊袋が出来る。単純に言えばこれを人体につけて火薬で吹っ飛ばせばいいのですが、発火装置には2種類あります。ダイレクトに導火線に火を点ける方式と電気発火式の二つです。両方をワンカットの中で併用したことがありましたが、ダイレクトの方が当然、迫力がありました。

 電気発火式の場合はどうしても素人の工夫では難しい。先ず麦球(豆電球)のガラスを割るのが難しい。下手に割ると肝心のフィラメントが切れてしまいます。そして麦球の中に爆竹からバラした火薬を詰めてセロファンテープで卷く。火薬を詰めている間にフィラメントが切れてしまう場合も考えられるので、一発勝負の撮影やアクションには向かないのです。爆竹をバラしたことがある人はおわかりでしょうが、火薬というものはある程度の圧力がないと爆発はしないのです。ニクロム線を爆竹の導火線に巻き付けるという方法も考えられるのですが、当時はニクロム線が入手できなかったのです。故に今に至るまで実験したことはありません。カット割りで誤魔化せるのであればダイレクトに導火線に点火してしまう方が確実で、見栄えがします。

 見栄えがよいように撃たれる役者は白い服がよいでしょう。ワイシャツなどの場合は生地が硬いので裏側から紙ヤスリなどで破れやすくしておくことが必要です。また、人体を保護するプロテクターとしては段ボールを二重にしたクッションの上に缶詰の蓋のようなブリキを載せたものが必要です。段ボールは必ず二重にしないと役者が怪我をします。そのプロテクターの上に爆竹を二本、血糊を載せて、ガムテープで弾痕になるところ以外は密閉して、役者の肌に張り付けます。ワイシャツに小さい穴を開けて、弾痕の位置から導火線を外に出します。カメラに写っていてもかまいません。どうせ、導火線に火をつけるところは編集でカットしてしまうのですから。後は度胸を決めて点火するだけです。……おっと、よい子のみなさんは決して真似しないでくださいね。

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