逃げろメロス


お断り このプロットは1960年代に植木等主演で映画化されることを夢想して書いたものです。

 流れ者の詐欺師、メロス(植木等)は激怒した。ため息に税まで取るような王(青島幸男)の因業な政治を目の当たりにし、城の金蔵を破り、とりあえず自分の懐を潤すことを決心する。

 「きっとお城の中にはお宝がぎっしり、ウッヒヒヒヒ。」

 お城に忍び込むメロスだったが、美しい歌声につられて王女(浜美枝)の部屋に入ってしまう。デュエットをしながら、王女に近づき、一目惚れするメロス。しかし既に周囲は十重二十重に衛士(桜井センリ、加藤茶たち)が囲んでいる。「お呼びでない。お呼びでない。こりゃまた失礼しました。」衛士たちに追われ、さんざん逃げ回るが、捕まってしまう。

 王は早速、死刑を宣告する。メロスは「僕には妹がいます。明日はその結婚式なのです。親に死に別れたこの世でたった二人の兄妹、式だけは見届けてやりたいのです。」「では明日の日没までに戻ってこい。それまで誰か身代わりを牢に入れておくことにしよう。」「それなら僕の竹馬の友、石工のセリヌンティウス(石橋エータロー)をご紹介しましょう。」

 縄付きのメロスが衛兵(谷啓)を案内して、セリヌンティウスの家に逮捕状とともにやってくる。「こいつはね、小さい頃からこそ泥ばかりしていたのよ。最後には私に濡れ衣を着せて、町を逃げ出した大嘘つき。こんな奴の身代わりになるなんて私はご免だわ。死んだ方がましよ。」と何故かオカマ言葉のセリヌンティウス。「死ぬ。大いに結構、死んでくれればこっちは大助かりさ。衛兵君、さっさと僕の縄をほどいて、彼を縛り上げてよ。上官の命令は絶対だからね。」メロスと衛兵は暴れるセリヌンティウスを縛り上げ、猿轡を噛ましてしまう。

 「王様行って参ります。」「うむ。くれぐれも言っておくが、もしもお前が逃げるようなことがあれば。」「王様。私はあなたほどの人格者が治めてらっしゃるこの国に住む住民ですぞ。あなたの民を信じなさい。妹の婚礼を見届けたならば必ず。」「死ぬとわかっている刑場に、友の命を救わんが為に戻ると申すのか。」「男の友情。友への真心を、誓って王様にご覧にいれます。セリヌンティウス君、心配するな。明日の日没までに必ず僕は戻ってくる。」

 悔し涙を流す。セリヌンティウス。メロスが出発してから牢番(安田紳)が猿轡を外す。「あの子は一人っ子だったから、妹なんていないのよーっ。」

 メロスには見張りの衛兵(谷啓)がついてくる。「メロスよ、これはオフレコだけれどさ。君が人民のために、あの不人気の王様の命を狙ったんだって、町では評判になってんだよ。明日、刑場へ戻れば一躍ヒーローだよね。」「ヒーローったって。そのまま死刑じゃつまんないよ。どうだい、衛兵君。僕と君でもう一度王の命を狙うなんてのは。」「駄目駄目。そんなの無理無理。僕は現実主義者なの。」

 一方、王の城では。王がグラフを見ながら自分の支持率の低下を気にしていた。メロスが無事に戻ってきたなら、友情に厚い男として表彰すれば、自分の人気取りになるのではないかと画策し、家老(ハナ肇)に祝賀会の手配を命じる。家老は王の地位を狙っていたので、逆用しようとスパイ(犬塚弘)を派遣する。王は牢獄に出向き、セリヌンティウスからメロスの実態を聞き、絶句して卒倒する。

 行く当てのないメロスは衛兵を適当にはぐらかしながら野宿をする。翌朝、たまたま教会で結婚式を挙げているカップル(布施明と中尾ミエ)を見かけて、兄貴面をして乗り込み、結婚式を仕切ってしまう。その名調子に感動して神父(由利徹)と衛兵は涙する。新婦の友人の余興(ザ・ピーナッツの恋のフーガ)に紛れて祝い金を持ち逃げするメロス。

 逃げるメロス。家老の刺客(人見明と藤田まこと)がメロスを襲う。追いついた衛兵と協力して、刺客をやっつけるメロス。家老の悪巧みを知った衛兵は、「このことを王様に告げて、褒美をもらおう。」「やだね。戻ればどちみち僕は死刑なんだから。」メロスは逃げる。衛兵は追うが、二人とも国境を越えてしまう。待ちかまえていたスパイが二人を捉えてしまう。「国外逃亡の罪は万死に値する。王の目前で絞首刑にしてやる。」「がちょーん。」

 家老は自分のバカ息子(小松政夫)を王女の婿にしようとするが、息子は王女に振られてしまう。「かくなる上は略奪結婚しかない。息子よ。王女を連れて駆け落ちせよ。既成事実を作るのだ。」「はい、パパ。でも、既成事実って何。おせーて、おせーて。」ハンカチを噛み、首を振る息子。

 城下町までつれてこられるメロスたち。道すがらスパイは勝ち誇って二人に告げる。「実はな、メロス。王は元々貴様が戻りさえすれば、誉めこそすれ、殺すつもりはなかったのだ。だから、貴様が逃げる必要はなかったのだ。」「そういうことは先に言ってくれよ。」メロスは衛兵と力を合わせて脱走し、偶然、家老の息子の一行と出くわして、王女を助けてしまう。日没が近い。

10

 処刑場でメロスを待つ王とセリヌンティウス。セリヌンティウスは涙も涸れ果てて、覚悟を決めている。「王様、だから言ったでしょ。あいつが戻ってくるはずないんだから。」「トホホホ。かといって、そなたを切らぬ事には世に示しがつかん。これでわしの人気はますます地に落ちるのか。覚悟はよいか。」「ああ日が沈む。南無阿弥陀仏。」処刑兵(なべおさみ)が重い剣を危なっかしく運んでくる。

11

 そこへメロスが処刑場の高みからギターを弾きながら颯爽と登場。さらに歌って踊る。王とセリヌンティウスは狂喜乱舞。家老の陰謀を暴くメロス。家老は「アっと驚くタメゴロー」と叫びながら、捕縛されて、一件落着。メロスは王女の婿となるが、王女の高慢さに閉口し、逃げていく。それをどこまでも追っていく王女。

終わり